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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4773号 判決

平和相互銀行

事実

昭和三十年一月八日破産宣告を受けた破産者小島清造の破産管財人たる原告は、破産者が被告株式会社平和相互銀行に対し負担していた金銭債務のうち、破産者が昭和二十九年六月十七日から同年八月十三日までの間に毎日全八万円づつ合計金四百五十六万円を弁済したことにつき、右各弁済は破産者の支払停止後になされた行為であり、被告も右支払停止の事実を知つていたものであるから、破産法第七十二条第二号によりこれを否認すると主張し、さらに、右弁済金は破産財団に属すべきものであるとして、原告は被告に対し、右金員並びにこれに対する支払済までの遅延損害金の支払を求めた。

被告株式会社平和相互銀行は、被告が支払停止の事実を知つていたとの原告主張を否認し、小島清造は被告銀行と同人が主債務者となつて消費貸借契約を締結したことはないが、他人の手形貸付数件について保証人となつたことは認める、原告主張の弁済金は何れも各主債務者からなされたもので、破産者がなしたものではない、と争つた。

理由

原告は破産者が被告銀行に金四百五十六万円の債務の弁済をなした旨主張し、被告は右金額を受領したことは認めるが、破産者からの弁済であることを否認するので、先ずこの点について判断するのに、証拠を綜合すると、訴外小島清造(破産者)は終戦後から特種飲食店を相当手広く経営していたが、昭和二十六年五月頃右営業上のことで刑事被告人となつたことがきつかけとなり、右営業の経営は妾の奈良キヨに委ねることとし、同年十一月頃に訴外丸岡商事株式会社を設立し、キヨをその代表取締役となし、自分はカフエー、レストラン、旅館等の営業に進出し、訴外大清興業株式会社、株式会社みむら等を設立し、会社組織でこれらを経営していたが、その実態は従前どおり小島個人の営業と変りないものであつたこと。右カフエー、レストラン等の事業を始めるについて相当額の資本を必要としたので、被告銀行から自分名義の外に妻八重、母あき、養父喜美太郎、妾奈良キヨ、キヨの実弟奈良新市、丸岡商事株式会社、大清興業株式会社、株式会社みむら等の名義で数年間に亘り十数回に百万円ないし数百万円づつの融資を受け、それぞれ小島所有名義その他前記の者等の所有名義の担保物件を提供しており、右融資金については被告主張のように相互掛金契約によつて一日数千ないし数万円の日掛金による返済方法を約していたこと。以上のように小島と被告会社との取引関係は小島が中心であつて、奈良キヨその他の近親者や小島キヨが主宰している前記各会社が主債務者となつてはいたけれども、それは被告銀行の貸付金額の制限又は担保物件の所有名義の都合上等から債務者になつたに止まり、右近親者等は名義を貸したに過ぎず融資金を自己の用途に費消したことはなく、各会社も小島個人と別個に独立して被告銀行と取引関係のあつたものではなく、右事情は被告銀行も了承していたこと。被告銀行は融資金に対する返済について各日掛金を各別に徴収することは手数でもあつたので、主として小島個人の振出にかかる小切手によつてこれを受け取り、後で便宜帳簿上各名義に従つて各融資金の返済金の内入に充当していたもので、原告主張の弁済金も小島個人振出の小切手を以てなされ、その受取帳も小島宛に出されていることを認めることができる。

以上の認定事実からみると、その名義の如何を問わず、又現実に支払われた金が小島以外の会社の経理から支出されたとしても、被告銀行との取引はすべて小島が実際の債務者であり、その弁済も小島によつてなされたものと解するのが相当である。

次に、被告は小島の支払停止を知らないで弁済を受けた旨主張するので、この点について判断する。証拠を綜合すると、被告銀行は昭和二十七年頃から小島と取引を始め、前記認定のとおり数年に亘つて数千万円の融資をなしていたもので、小島の営業状態や経営振りについては十分承知しており、昭和二十九年四月頃からは二十八万円の日掛弁済金を小島振出の小切手で受け取り、その回収に心掛けていたところ、偶々同年五月末小島の手形不渡処分が出るに及びその頃これを知り、小島は不動産その他の相当の資産を有してはいたが他面多額の負債のあることをも察知していたので、自己の融資金の回収を図る目的で担保物件について代物弁済による所有権移転登記をなす傍ら、前認定のように日掛による返済金を督促してこれを受領したものであり、小島が同年五月末支払停止の状態になつたことを推察していたものであることを認めることができる。してみると、被告銀行の右金員の受領は破産法第七十二条第二号に該当すると解するのが相当で、原告の本件否認権の行使は正当というべきである。

被告は別除権者であるから破産手続外で弁済を受けるのは自由である旨主張するけれども、本訴においては原告主張の金四百五十六万円の弁済が否認権行使の対象となるかどうかが争点であるから、被告主張の点は別に問題となり得るとしても、右本件争点の判断には影響を及ぼさないものと考えられる。

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